お別れの日(松村北斗)
視界がボヤけて、どこか分からない。
「大丈夫ですか!?松村さん!?」
声は聞こえるけど、意識が朦朧として
答えられない。夢なのかと思っていた。
「松村さん … ?」
目を開けると真っ白な壁の前に白い白衣をきた人が話しかけてきた。
「はい … 」
「はぁ、意識戻りましたね」
「え、僕、、」
「松村さん、昨日倒れたんですよ」
「えっ、」
「担当医を呼んできますね」
状況はよく分からなかった。
昨日の事をよく思い出せない、。
「松村さん、とても残念なのですが」
「え?」
「脳に腫瘍が見つかりました。神経を侵食しています」
「、、治るんですか、?」
「、、、とても言いにくいのですが、」
いつ死んでもおかしくないと告げられた。
今まで何も無く過ごしてきた事が奇跡に近いと。
確かにココ最近、体を壊すことが多かった。
仕事が忙しいことを言い訳に病院に行かなかった。
呆然状態で、ベットに座り、窓の外を眺めた。
綺麗な青空だった。少し空いた窓から入ってくる風はとても冷たくて。
「あの、家に帰りたいんですが」
いつ死ぬか分からない、実感は湧かない。
けど死が近いことは確かなのだろう。
俺が今1番しなければいけない事、を考えた。
「いつ病状が変化するか分からないですよ」
「帰りたいんです」
「いいんですか?」
「しなければいけないことがあるので、」
俺のしなければならないこと。
一つしかなかった。
手には、携帯。メールの宛先は、愛する人。
「話がある。」
短い文だが、彼女にならきっと伝わる、そう思った。
「別れる?」
「うん。」
少し冷たいかもしれないけど、
彼女に嫌われるためにこうした。
「どうして?」
「言えない。」
言うと、私も死ぬ、と言い出すような人だ。
秘密にすることにした。
「そっか、」
「泣いてる?」
「ううん、」
これは嘘だと分かっている。自分では打たれ強いと思っている彼女。
だけど、本当は脆く、とても弱い。
「日曜、デート行こう。」
最後は彼女の笑顔を見たい、そう思った。
デートの日。
目覚ましがなる前に目が覚めた。
というよりは寝付けなかった。
彼女との思い出の写真を眺めていた。
「俺が死んだらこれも一緒に焼いてくれるかな … 」
自分でも何を言ってるんだろうと笑ってしまった。
「今日は … 」
今日は、俺の好みじゃなく。
彼女のお気に入りの服を選んだ。
彼女から貰った健康のお守り。
「お前が、守ってたのか?」
よく見ると、安産祈願だった。
俺、安産だったのか、。
「おはよう」
ドアを開けた彼女は悲しい笑顔をしていた。
別れたくない。彼女の顔がそう言っていた。
俺は気付かないふりをした。
車の中の彼女は、ずっと窓の外を見ていた。
両手をずっと組んでいる。
彼女が悲しい時、辛い時、にする癖だ。
俺は見ていないふりをした。