静かに、虚しく、⑤

 

 

 

 

「そうそう」

 

 

マネージャーさんから伝えられたものは

ある映画監督が私の事を主演にしたいと言っている

と言ったものだった。

 

 

 

とても嬉しかった。

初めての主演映画。それは恋愛小説の実写化。

 

 

偶然出会った二人が再び偶然出会って結ばれる

といったものだった。

 

 

 

「素敵なお話ですね!是非やってみたいです!」

 

「相手の方はもう決まってるみたいなのよ」

 

「どなたなんですか?」

 

「それがギリギリまで監督と本人以外は秘密みたいで」

 

「バレたらまずいんですかね、?」

 

「かもしれないわね」

 

 

 

 

相手の方はそんなに気にはならなかった。

今は自分。自分が成功することだけが一番だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は宜しく御願いします!」

 

 

 

 

初めての撮影日。

初めての環境に緊張していた。

 

 

 

 

 

『〇〇さん入られまーす』

 

 

周りの声が大きく聞こえなかったが

相手の男性が入ってくるようだった。

少し緊張した。

初主演のお相手だ。素敵な方がいいなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『宜しく御願いします』

 

 

その声には聞き覚えがある。

 

 

 

『今回、叶多役を務めさせて頂く森本慎太郎です』

 

 

 

そこには笑顔で私を見つめる彼がいた。

静かに、虚しく、④

 

 

 

寒さと暑さに耐えて四日目が経った頃

コンクリートで埋まっていた階段に光が差した。

 

 

 

「おーい、大丈夫かぁー!?」

 

 

 

外にはここにいる人の家族がいるのだろう。

たくさんの声が聞こえる。

 

そして、閉ざされた階段が開いた。

続々とレスキュー隊と人々が入ってくる。

 

 

「お母さん!!」

 

 

先に見つけたのはお兄ちゃんだった。

妹もそれを見つけ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら母の元へかけつける。

 

 

 

「すみません、お世話になりました、、」

 

「いえ、このぐらい」

 

「もう本当に感謝しきれません、、」

 

 

母親は泣きながら感謝を伝えてきた。

 

 

 

 

「あ、あそこの男性も一緒に、、」

 

 

慎太郎さんのいたはずの場所を見る。

 

 

しかし、そこにはもう姿がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの災害から五年が経った ー

 

 

 

私は大学生から社会人となり、

復興をとても早いスピードで行われ

人々の心は癒えつつあった。

 

 

 

一般企業に就職するつもりで入った大学だったが

慎太郎さんにもう一度会いたい

という思いが強く、芸能事務所に所属した。

 

 

入ってすぐは仕事はゼロだったが

会いたい思い一心で仕事に熱中した。

すると一年ほど前から少しずつモデルの仕事や女優の仕事がはいるようになった。

 

 

そして私は仕事をしていくうちに

本来の目的を考える時間もなく、忘れつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「〇〇さん」

 

「はい!」

 

「今日はえっとこの収録ですね、」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

今日も変わらず仕事をした。

やっていて大変な職業だが、楽しさは感じていた。

静かに、虚しく、③

 

 

 

配られた、2枚のブランケットを重ねる。

疲れ果てた兄妹は私の足の上で寝ていた。

 

 

 

 

『あの、、お名前は、?』

 

先に話をしたのは彼からだった。

 

「〇〇 〇〇〇と言います、」

 

「貴方は?」

 

『僕は、森本慎太郎って言います、』

 

「慎太郎さん、、」

 

『あのこんな時に話すなんて不謹慎かもしれないんですけど、、』

 

「はい」

 

『そのバック、〇〇のフェスのバックですよね?』

 

「えっ、知ってるんですか?」

 

『はい!僕もファンなんです!』

 

「なかなか知ってる方いらっしゃらないから、びっくりです!笑」

 

『いや、僕もです!笑』

 

 

 

その話題から趣味の話や歌手の話、、

なんとも彼とは話があった。

初めてとは思えないほど楽しい会話だった。

ドン底な気持ちから少し元気が出てきた。

 

 

 

「あっ、慎太郎さんって、なんのお仕事されてるんですか?」

 

『僕?笑 僕は、恥ずかしながらジャニーズです笑』

 

「ジャニーズの!アイドルさんだったんですね、」

 

『びっくりですよね?笑』

 

「はい、少し 笑笑」

 

 

『あの、〇〇さん、』

 

「はい」

 

『お家族とか、あのー、彼氏さんとか、に連絡、しなくても大丈夫なんですか?』

 

「家族にはしましたよ、でも繋がらなくて、、彼氏さんは、、いません、苦笑」

 

『あっいらっしゃらなかったんですね、苦笑』

 

「慎太郎さんは、?」

 

『僕も、いらっしゃらないです、、笑』

 

「えー!意外!」

 

『意外ですか!?』

 

 

 

慎太郎さんに彼女がいないと聞き

何故かホッとした自分がいた。

静かに、虚しく、②

 

 

 

妹をおぶり兄妹を連れていく男性を見送る。

兄の方は私を心配し、何度も振り返るが

 

「大丈夫、大丈夫!」

 

と笑顔で答えた。

 

 

 

が、しかし大丈夫なわけもなく

追いかけることもできない。

またいつ来るか分からない恐怖に体が震えていた。

 

 

周りにはほとんど人がおらず

自分だけ取り残されていた。

 

 

痛む左腕を押さえる。

 

 

 

『はぁ、はぁ、、大丈夫ですか?』

 

 

声が聞こえた方を見ると

さっきの男性だった。

 

 

「あの子達は?」

 

『今、色々崩れて外に出れない状態なんです。あの子達は近くにいらっしゃった方に少しの間見て貰えるよう頼んできました』

 

「はぁ、、、良かった、、」

 

 

急にしゃがみ、背中を向ける男性。

 

 

「え?」

 

『足、怪我してるでしょ』

 

「あっ、、、」

 

『乗ってください』

 

 

言葉に甘え、背中に乗る。

ホームに着くとたくさんの人が

駅員に手当されたり、地面に座っていた。

 

 

 

「なんで、、、」

 

『地上はもっと酷いようですよ、、』

 

 

心はどん底だった。

いつもと普通の変わらない日だったはずなのに。

 

 

「お姉ちゃん!!」

 

走ってきたのはお兄ちゃんの方だった。

 

 

「ごめんね」

 

「ううん、大丈夫?」

 

「うん!」

 

『今日はここで泊まりになりそうですね』

 

「私はこの子達といます、貴方は?」

 

『俺もいます、怪我だってされてるし男手があると楽でしょうから』

 

「ありがとうございます、、」

 

 

 

そうして始まった4日間。

静かに、虚しく、①

 

 

 

ガタンゴトンと揺れる地下鉄。

毎日見慣れた同じ立ち位置の同じ景色。

この普通なところが好き。

 

 

 

「ドキドキするねっ…」

 

 

私の前の席に座っている兄妹。

2人で手を繋いでニコニコしている。

そんな彼らを笑顔で見ていたらふと目が合った。

 

「あっ、、こんにちわ」

 

「こんにちぃわぁ」

 

妹の女の子が照れくさそうに答える。

 

「今日は2人なの?」

 

「うん、お母さんの美容院まで2人で行くの」

 

お兄ちゃんがしっかり手を繋いだまま、しっかりした口調で言う。妹もうんうんと笑顔で首を振る。

 

「そうなの!凄いねぇ!」

 

でしょ〜!とふふふと笑う2人。

 

 

 

 

ピロンピロン、ピロンピロン、、、

 

突然、電車内で響く携帯の警報音。

この音には嫌な思い出があった。

そしてその音と一緒に、嫌な思い出が振り返る。

 

 

ガタガタガタ、ギーーーー

と音を鳴らしながら走る電車。

キャーと揺れる車内で響く声。

 

 

「あっ」

 

 

目の前の兄妹に目がいった。

兄は涙を我慢し、妹は泣いていた。

 

 

「大丈夫、大丈夫だから」

 

兄妹は震えていた。

車内の悲鳴と警報が聞こえないように

持っていたタオルとカバンで彼らの耳と頭を守る。

 

 

その瞬間

 

 

 

ドン!!!

 

 

と地面の奥から嫌な音がした。

その瞬間、車体が一気に傾き、窓ガラスが割れた。

悲鳴にならない悲鳴が車内に響き渡る。

すぐ近くホームに車体が止まる。

 

 

目を開けるとコケている人、怪我をした人で車内が埋まっていた。

 

腕の中にいる兄妹を見ると無事だった。

 

 

 

「すぐに車内からホームに出てください!」

 

駅員と思われる声が聞こえた。

 

 

「大丈夫?」

 

泣きながら、縦に首を振る兄妹。

 

「大丈夫、大丈夫、お姉ちゃんがついてるから。」

 

 

なんとか車内から出ようと

兄妹を立たせ、体に傷がないか確認する。

 

「よかった、、、」

 

 

そして立とうとした瞬間、

地面に手をついた左腕が痛んだ。

見ると、ガラスで切れて血が出ていた。

 

 

「お姉ちゃん、、、」

 

「ふふ、こんぐらい大丈夫!」

 

 

このぐらい、と思いタオルで血を止める。

 

 

「ごめんね、すぐ避難しようね、」

 

 

立ち上がろうとするが、立てない。

足首が動かなかった。

力を入れるが、それと同時に衝撃的な痛みが走る。

 

 

「ごめんね、お姉ちゃん怪我してるみたいなの、、2人で先に行けるかな?」

 

 

泣きながら私の右腕にしがみつく妹。

手の握りこぶしが震えるお兄ちゃん。

 

 

『あの、、大丈夫ですか?』

 

 

顔をあげると一人の男性がいた。

 

「すみません、、私が怪我してしまったみたいで、、先にこの子達を連れて行って貰えますか?」

 

 

『分かりました、あの、貴方は大丈夫ですか?』

 

 

「大丈夫です、後から追うので、先に、、」

 

 

『はい』

森本さんとの出会い

 

 

恋愛下手、奥手、全てが当てはまる私は

高校生の頃一度だけ流れに任せて付き合った人

しか恋愛経験がない

 

 

 

 

 

「え、彼氏いないの!?」

 

「いい人が見つかんないんだよね〜、、笑」

 

私の恋愛事情を知っている唯一の友達、みわ

彼女は既に結婚していていつも私を気にかけている

 

「ほんと、気づいたらババアになるよ!?」

 

「え、、まだ22なんだけど、」

 

「あんた、22って世の中ではおばさんだよ?」

 

「嘘、、、」

 

「うん、嘘」

 

気にかけてくれているのか馬鹿にしているのか

分からないけど週3で会っていつもこの話になる

彼女はいつも目を見開いて

机が倒れるんじゃないかと思うぐらい騒ぐ

 

「そうだ、」

 

「ん?」

 

「いや、そう言えばいい人がいんのよ」

 

「もういいって〜、」

 

高校生の時、いい人がいると言ってオススメしてきた人があの先輩だった

 

「いや違うのよ、あのたなk …」

 

「あ〜!やめて!名前言わないで!」

 

「ごめんごめん笑 あの人みたいな人じゃないから」

 

「いやでも …」

 

「一回だけ会ってみようよ、ね?一回だけ!」

 

「ん〜…」

 

「ほら!私もついていくから!」

 

「まぁみわがくるなら …」

 

「よし決定〜!またLINEするね!」

 

「え、どこ行くの?」

 

「今から旦那様とおデートなのよ」

 

「そうなのね、笑」

 

「じゃね〜」

 

 

正直、嫌な予感しかしない

先輩、田中先輩、いい人だったけど合わなかった

 

 

みわの紹介してくれる彼は

私の6歲年上の28歳の男性で

彼も彼女がしばらくいなく、寂しくしているらしい

みわが知り合ったのは彼が彼女の旦那様の友達らしく先にオススメな人がいると言ってしまっている

らしい、、。

 

 

 

そういって、迎えた当日。

お別れの日(松村北斗)②

 

 

 

遊園地。子供みたいに遊んだ。

入場者数10万人目だった。

彼女はインタビューをされた。俺は知らない人のふりをしたけど笑ってしまった。

ジェットコースター。5回も乗らされた。

アイスクリーム、寒いのに食べさせられた。

お化け屋敷で彼女に脅かされた。

彼女が階段で盛大にズッコケて、笑った。

小さい子が俺の変顔を見て泣いた。

昨日のM-1のギャグを2人で話して、お腹を抱えて笑った。腹が痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

いつもの公園。

静かな公園。俺達の笑顔が影のように地面に掘られているこの公園。

 

 

 

 

「寒いね」

 

「もう12月じゃん」

 

「そっか、寒くないとね」

 

「クリスマスかぁ〜」

 

「 … 」

 

 

 

答えることができなかった。

クリスマスは傍にいてあげることができないかもしれない。

 

 

 

 

「あのさぁ」

 

「うん」

 

「、ふふ」

 

「何?笑」

 

「私の事、」

 

「、うん」

 

「嫌いになったの、?」

 

 

 

 

辛かった。彼女にそんな言葉を言わせてしまったことが悲しかった。

 

 

 

 

「好きだよ」

 

 

俺は無理矢理、笑顔で答えた。

 

 

 

「じゃ、、どうして、?」

 

 

「好きだから」

 

 

 

そう伝えると、彼女は泣いた。

彼女の涙を見ると心臓が痛かった。

 

 

「なんでよ、、」

 

 

彼女の瞳の奥に吸い込まれそうだった。

もう辛い、では収まらない苦しみを感じた。

 

 

 

 

「好きだから、迷惑かけられない」

 

「迷惑なんて、かけてないじゃん、」

 

 

 

これからの俺は間違いなく迷惑だ。

彼女を幸せにできない。迷惑な存在でしかなくなる。

 

 

 

「悲しむから、」

 

 

 

そうとしか伝えられなかった。

彼女には俺以上に生きて欲しいから。

彼女が将来家庭をもって、幸せにしている姿が頭に浮かんだ。

あぁ、これでいいんだ。

そう思った瞬間、涙が流れた。

彼女の前では泣かない。そう決めていたのに。

 

 

 

 

彼女と 「ありがとう」 と言い合い別れた。

これ以上一緒にいたらダメだと思った。

彼女から離れられなくなる。離れてくれなくなる。

 

 

 

人生、最後の相手が彼女でよかったと思った。

素敵な女性だった。

喜怒哀楽が激しく、ドジで。

何にでも〝さん〟とつけていた。

動物が好きで、感動する話ではティッシュが2箱なくなるほど泣く人だった。

 

 

 

 

いつもの彼女の家からの帰り道。

あと10分で着く、そんな頃。

 

今まで経験したことの無い痛みが襲った。

吐き気。頭痛。意識が朦朧とする。

 

 

 

 

死ぬ。そうだ。俺、死ぬんだ。

 

 

そう思い、俺は車から降りた。

 

 

 

 

彼女を思い、道を歩く。

足は動かず、体も重い。一歩一歩が進まない。

息も切れる。助けを呼ぼうと携帯をとる。

あそこにあるベンチに座って、病院に電話をしよう。

 

 

 

 

「あ … 」